日本人信徒たちによって建てられた歴史的建築物「黒島天主堂」の魅力に迫る

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黒島教会 世界遺産登録

国指定重要文化財であり、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」構成資産の1つとして2018年夏に世界遺産(世界文化遺産)登録されている「黒島の集落」にある黒島天主堂(黒島教会)。

長崎県佐世保市の黒島特集では、その黒島天主堂を様々な角度からご紹介しています。

禁教の時代に入っても根強く信仰を守ってきた黒島の人々が「信仰の証」として建てた黒島天主堂。

今回は、その歴史的建築物としての魅力に迫ってみたいと思います。

100年以上前に日本人信徒たちによって建てられた黒島天主堂

世界遺産 黒島天主堂

黒島天主堂の完成は1902年(明治35年)とされています。(教会備え付けの洗礼台帳より推測)

今よりも交通手段が乏しかった明治時代、この長崎県佐世保市の離島・黒島にこのような西洋建築物を建てることが容易でなかったことは想像がつきますよね。

しかも、建築に携わったのは、大工を生業とする人々ではなく、信者である島民が中心だったのだそう。

フランス人のマルマン神父の設計と指導のもと、長崎から呼び寄せた前山佐吉を棟梁に五島列島宇久島の大工 柄本庄市や信者たちの勤労奉仕により5年の歳月をかけ完成しました。

黒島天主堂 歴史

黒島天主堂の入り口付近には、マルマン神父の黒島天主堂に対する想いとその功績がわかる石碑が建てられています。

建設の途中、マルマン神父は一度、資金調達のためにフランスに戻り、またその際に教会のためのステンドグラスや聖人像、アンジェラスの鐘などを持ち帰ったとのこと。

現代のように簡単に飛行機で往復出来る時代ではありませんから、そこには命がけの覚悟があったとも推測できます。

こうして、総工費1万5千363円(現代でいうと3億円相当)をかけ、黒島天主堂は完成しました。

国内に残る数少ないレンガ造りの教会として貴重な存在に

黒島天主堂 40万個の煉瓦

天主堂建造に使われたレンガの総数は約40万個ともいわれています。

一部は島民が黒島の赤土を焼いて作ったそうですが、大半は島外から取り寄せたものだったとか。

レンガや資材は、名切ノ浜という海岸に荷揚げされ、そこから信徒たちの手で運ばれました。

実際に私も名切ノ浜を訪れてみましたが、海岸へと続く道は、現代でも険しい坂道。

黒島 名切の浜

すぐ傍まで崖が迫り、車でも大変な勾配でした。

約40万個のレンガや他の資材を担いで、ここを登ったかと思うと、本当に大変だったと思います。

と、同時に、その労を厭わなかったことこそが「信仰の証」。

大変な苦労と共に建てられた黒島天主堂は、国内に残るレンガ造りの教会として貴重な存在になっています。

祭壇の床には有田焼のタイル

黒島天主堂 有田焼のタイル

黒島天主堂の祭壇の床をよく見ると磁器のタイル(敷き瓦)が使われています。

マルマン神父は信徒たちが祈りをささげる場と聖域である祭壇を分けるために、タイルによるデザインをしたのではないかと想像されています。

このタイルは、佐賀県・有田の松尾窯業(松尾徳助氏)作。

松尾徳助氏は、石炭を火力にして磁器を焼くことで量産を可能にし、有田で初めて磁器製のタイルを焼いた人物です。

磁器のタイル(有田の松尾徳助作)

十字架にも見える染付文様のタイルは約1800枚あるのだとか。

このタイルは、有田焼としても貴重なものらしく、有田町歴史民俗資料館・館報「季刊 皿山 No,60」でも紹介されていました。

黒島天主堂 祭壇の奥にある壺

さらに、祭壇の隅にある花瓶は、当時、その松尾窯から譲り受けてきたものだということ。

現在、松尾窯は存在しませんが、後に花瓶を見た松尾徳助氏の子孫から「松尾窯の図柄である」と連絡があったそうです。

この花瓶は、当時、クリスマスツリーの台座として使われていたよう。

重いツリーをさしたことから過重に耐え切れず、底が抜けてしまっていることからも、台座として重用していたことがわかります。

その精密さに圧倒されるリブ・ヴォールト(コウモリ天井)

黒島天主堂 蝙蝠天井

黒島天主堂は、後期ロマネスク建築やゴシック建築の特徴のひとつであるリブ・ヴォールト(コウモリ天井)です。

骨(柱と柱の間のリブ)の形がコウモリ傘に似ているといえば、その特徴が理解出来るでしょうか。

天国へつながるような高い空間を作り出す様式は教会建築のデザインとして発展し、フランスのノートルダム大聖堂やモン・サン=ミッシェルなどヨーロッパの有名な教会にもその様式が見られます。

天井を見上げれば、木の美しさが際立つリブ・ヴォールト。

黒島天主堂 リブ・ヴォールト

同様の様式が使われているにも関わらずヨーロッパの教会建築に比べ、どこか温かく、包み込むような優しい印象があるのは、つらい禁教の時代を支えた信仰心、日本人ならではの真面目な気質が表れているのではないかと思います。

そしてそれは、この天井に施された見事な細工にもつながります。

この天井の木目、天然のものではないと言われて信じられますか?

実は、厳しい予算の中では上質の材木を使うことが難しかったため、普通の板にニスを塗り、その上から櫛目引きという技法で木目を描いているというのです。

聞いても「手描きだなんて嘘でしょ?」「どれがそれなの?」とわからないほど精巧ですよね?

実際にその場で説明を聞きながら天井を見上げた私にもそれはわかりませんでした。

この技法は天井だけでなく、もっと間近に見れる扉などにも使われていると言います。

黒島天主堂 手描きの木目

壁面の一部をかなり間近で見て、ようやく「手描きかもしれない」と理解出来ました。

左下側の年輪をよく見てみてください。少し不自然なようにも思えます。

でも、これは「手描き探し」をしてようやく見つけた片鱗。

知らないまま見れば、聞いても探さなければわからないほど精巧です。

これほどの細工を天井全面、そして壁面の一部にまで施すには、どれほどの時間と労力が必要だったでしょうか。

ここにもやはり、信者たちの信仰の厚さや、天主堂への想い、真面目で勤勉な日本人の心が感じられます。

黒島特産の御影石が支える束ね柱

黒島天主堂 束ね柱

黒島天主堂は、柱もゴシック建築の特徴のひとつである束ね柱です。

ヨーロッパの教会建築では、実際に複数の柱を束ねるのではなく、石材への切り込みでそのように見せているものが多いのですが、黒島天主堂の束ね柱は実際に太い円柱の回りに何本もの小円柱が束ねてあります。

この束ね柱の材木は欅(ケヤキ)。

釘を使わず、“込み栓”を用いることで複数の柱を固定しています。

黒島天主堂 柱基礎 御影石

さらに柱基礎には、黒島特産の御影石を使用。

信者たちの「信仰の証」であり、文字通り「心の拠り所」である黒島天主堂を支えるのが、この黒島の土壌から掘り出された御影石であったこと。

ここに黒島とキリスト教の結びつきを感じずにはいられません。

歴史的価値と共に感じたい黒島天主堂の建築・芸術的価値

黒島天主堂 説教壇

祭壇横には、日本では珍しい説教壇(講壇)が置かれています。

説教壇とは、神父がミサの中で信徒に話をするときに使う台。

黒島天主堂の説教壇は、マルマン神父自らが彫刻を施したといいます。

現在は使われていないそうですが、マルマン神父がこの黒島天主堂を大切に想っていたことが伝わってくる存在です。

黒島天主堂 ゴシック様式の部分

また、天主堂エントランス上部、3層構造の2層目(トリフォリウム)に位置する楽廊の手すりには、現在の黒島天主堂の前身としてペルー神父によって建てられた木造聖堂の聖体拝領台の手すりが使われています。

ペルー神父の木造聖堂は1880年(明治13年)に建てられていますから、実に140年前のもの。

黒島天主堂がロマネスク様式でまとめられている中、この手すりは木造聖堂に用いられたゴシック様式です。

黒島天主堂 ステンドグラスの光

ステンドグラス越しに天主堂内に差し込む陽の光。

その光によって彩られる有田焼のタイル。

これもまた、天主堂の構造と自然が織り成す美しい芸術です。

どうしても教会建築といえば外国を訪れがちですが、日本のここ長崎県佐世保市の黒島天主堂も「観るべき」教会のひとつではないでしょうか。

この夏は、外国ではなく黒島へ訪れてみると良いかもしれません。

黒島天主堂は、事前予約をすることで天主堂内を見学することが出来ます。

■教会見学の事前連絡についてのお問合せ■
長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産インフォメーションセンター
TEL 095-823-7650 (9:30~17:30)
https://kyoukaigun.jp/

※2018年11月1日から2020年10月末までの予定で耐震化・保存修理工事が実施されます。残念ながら、その期間中は見学することが出来ません。

(通常天主堂内は撮影禁止ですが、今回は取材として撮影許可をいただいています。)

黒島特集では、黒島天主堂を歴史的観点から見た記事も掲載しています。

よろしければ、こちらも併せてお読みください。

世界遺産登録予定の佐世保市黒島の集落、島と教会の歴史から見る信仰の形

2018/07/02 編集部追記:
2018年6月30日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の第42回世界遺産委員会が、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」(長崎、熊本両県)の世界文化遺産への登録を決定したため、記事内の表記「世界遺産候補地」より”候補地”を外させていただきました。関連する表記も一部加筆修正等させていただいております。

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